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2003.3.13 所属カテゴリ: 甲斐駒ケ岳 / 登山 / 百名山 /

日向山

 山梨県北杜市白州町の尾白川と神宮川に挟まれた尾根の末端にある標高1660メートルの山。頂上はクマササと雑木に覆われている。西端に出ると雁ケ原といって、花こう岩が風化した白砂の斜面が広がっており、その中に小さな岩塔が乱立している。ここからの展望は素晴らしい。北に八ケ岳と広大なすそ野、右に奥秩父の山々から大菩薩連嶺、南々西には思わぬ高みに甲斐駒ケ岳が堂々と見える。ふもとの白須から竹宇を経て尾白川林道をあがり、錦滝から右に斜上して雁ケ原の直下に出る。これが一番楽な登山コースである。1997(平成9)年、山梨百名山に選定。

■昔も今も天気知らせる

 神宮川(旧名濁川)を隔てて雨乞岳の南東にあるのが日向山だ。白州総合支所あたりからだと何の変哲もない山だが、小淵沢から見ると山頂部分が真っ白なのが特徴。実際に登ると、山の北側は風化した花こう岩の斜面が神宮川まで落ち込んでいる。岩がニョキニョキと立ち、鬼気迫る風景が広がる。雁ケ原(腹)と呼ばれる場所だ。=【写真】日向山

 『甲斐国志』には濁山で載っている。「白禿(しらはげ)山ナリ土人其ノ色ノ清濁ヲ望ンデ晴雨ヲ知ル」。白い斜面がはっきり見える時は晴れ、濁って見える時は雨ということらしい。

 日本で近代的な気象観測が始まったのは明治になってから。日向山には最先端の「アメダス」が設置されている。アメダス(AMeDAS)は、地域気象観測システムの英語の略。システム全体にも個々の観測施設にも使われる。1974(昭和49)年、気象庁が全国で運用を開始した。

 雨量、気温、風向・風速、日照(豪雪地は積雪も)の4観測タイプと雨量観測だけのタイプがある。全国に約1300カ所あって、そのうち840カ所が4観測タイプ。雨量は17キロメートル四方に1カ所あることになり、局地的な集中豪雨などの監視に大きな役割を果たしている。

 日向山のアメダスは雨量観測タイプ。57(昭和32)年、山頂近くに無線ロボット雨量観測所として設置された。翌年観測を開始。74年にアメダス観測所となり、設置場所も低い場所に変更。83年に現在の1180メートル地点に移った。観天望気の江戸時代も、近代的観測施設になった現代も、日向山は天気予報に欠かせない存在だ。

 旧名の濁川は、大雨が降ると白く濁ったことが由来という。建設省が神宮川への名称変更を認めたのは72年5月。明治神宮にこの川の玉石を献上していることからだったが、”異例”の変更だった。

 『国志』は、この川を次のように書いている。白須から一里半の所に三、四十人が入れる蝙蝠(こうもり)小屋と呼ぶ洞くつがあって、コウモリが多数飛び交っている。さらに上流には鬼ノ窓という大岩に空いた穴がある。ここには魑魅(ちみ)が住んでいる―。不気味な川だった。

 山頂は明るい。甲斐駒ケ岳、八ケ岳、奥秩父が見渡せる。植物も豊富で、ユキワリソウが多かった。しかし頻繁に盗掘に遭い、絶滅の危機にひんしている。例えば錦滝は岩全体にユキワリソウが咲き誇っていた。今は上の方にわずかに残っているだけ。人の手が届く範囲には一株も残っていない。 〈「山梨百名山」 山梨日日新聞社刊〉