【連載】南アルプス 自然と人[14]
生態究明に挑む静岡大教授 データ、世界遺産化へ活用
「人があまり入っていないことで自然度が抜群に高い。国内に残る唯一の観光地化していない山塊だ」-。南アルプスで、30年以上にわたって植物の生態究明などに挑み続ける静岡大理学部・増沢武弘教授はこう語る。
山梨、静岡、長野の3県にまたがり、総面積約3万5000ヘクタールと広大な南アルプス国立公園。多くの動植物が共存する自然の宝庫だ。だが、一つ一つの山が大きいことによる懐の深さ、アプローチの過酷さ、標高3000メートルを超える過酷な環境により、学術的な調査は十分とは言えないという。
高山帯など極限環境で、生物の生態などを調べている増沢教授。そのフィールドは富士山など国内にとどまらず、南極などにまで及ぶ。「自然度の高さ」に魅せられた南アルプスでは、北岳だけに自生する希少種「キタダケソウ」の生態解明などにあたる。
長いときには1カ月以上もテントでの生活を送り、調査を続ける。悪天候に見舞われ、満足に調査できずに下山することも少なくない。調査対象は、地形や地質といった周辺環境など多岐にわたる。このためキタダケソウ一つとっても、3カ年計画をたてて調査に取り組んでいる。
調査の進展には多くの可能性を秘める。学術的価値の証明は、世界自然遺産に向けた“武器”になり、生態の解明は絶滅危惧(きぐ)種の保護対策において、有効な手段を探ることにつながる。「調査や研究の成果は還元するべきであり、行政の対策などに十分利用してほしい」という。
「南アルプスの世界自然遺産登録は決して夢物語ではない。しかし、その価値を証明するにはデータがまだまだ足りない」と語る増沢教授。南アルプスの価値、素晴らしさの科学的証明を目指しての地道な研究は続く。
2010年8月21日付 山梨日日新聞掲載