【連載】南アルプス 自然と人[13]
3人の「若き山番 山の歴史に新風吹き込む
山とともに暮らしながら、登山者を出迎える山小屋のスタッフ。登山者にとっては一番頼りになる存在だが、どんな熟練スタッフでも、いずれは山を下りる日を迎える。しかし、山への情熱や豊富な経験は、次世代へと受け継がれていくのが山小屋の歴史だ。南アルプスにも、これからを支えようとする若手の姿がある。
「今まで以上に良くなったと言われる南アルプスにしたい」「温かく登山者を迎えられるような環境をつくろう」-。広河原山荘の塩沢顯慈さん(30)、北岳肩の小屋の森本千尋さん(30)、森本大さん(28)。同世代で、普段から親しい3人が顔を合わせると、南アルプスの将来を熱く語り合うのはいつもの光景だ。
3人とも父親が山小屋で働いていたため、物心つくころから山の中を駆け回り、“先代”の父の背中を見て育った。山の危険や過酷さ、自然の素晴らしさを体で覚え、強靱(きょうじん)な脚力や山岳知識も自然と身についた。
今、山小屋での仕事をこなす中で、いろいろな思いがある。環境への配慮、山岳救助のレベルアップ、山小屋間の連携体制づくり…。やりたいことが山ほどある。南アルプスに、気軽に足を運んでもらえるようなイベント開催もその一つだ。「父や先輩たちの教えを尊重した上で、今までにない新しいことにも挑戦していきたい」。そう3人は口をそろえる。
「人とのつながりを尊重し、自然も人も魅力的な山にしたい」と望む千尋さん。「山小屋間の強い信頼関係の中で、一丸となって南アルプスの良さを伝え、守っていきたい」と情熱を燃やす大さん。「山に携わる人間として、できることの範囲を少しでも広げていきたい」と考える塩沢さん。「若き山番」たちが近い将来、先代の築いた歴史を引き継ぎながら、南アルプスに新たな風を吹き込もうとしている。
2010年8月20日付 山梨日日新聞掲載