【連載】南アルプス 自然と人[12]
標高2900メートルの北岳診療所夏山の安全、学生らが守る
南アルプス・北岳で登山者の健康と安全を守り続ける小さな診療所がある。医師や医学生、看護学生らが常駐し、高山病やすり傷、ねんざといったものから生死にかかわる事故まで、昼夜を問わず対応する山岳医療の最前線だ。昭和大北岳診療部が運営する「北岳診療所」。標高約2900メートルの北岳山荘に隣接して建つ小屋の小さな看板は、南アルプスに欠かせない大きな存在になっている。
北岳で診療がスタートしたのは1979年。小林太刀夫・元昭和大藤が丘病院長が南アルプス登山をしていた際、夜叉神峠小屋主人だった塩沢久仙さんの要請を受け、学生や医師に声をかけて北岳山荘で診療をしたのが始まりだ。その後、学生のクラブ活動として同大医学部北岳診療部が発足し、以来約30年間、診療を続けている。
一夏の受診者は延べ150人ほど。今シーズンは7月15日に開所し、受診者が集中する明け方などを中心に処置や相談に応じる。滑落などの事故があれば現場へ駆け付け、テーピングをしたり、傷口を縫い合わせたりもする。
診療所のスタッフは全員がボランティア。北岳診療部に所属する学生をメーンに、医療機関で活躍する医師ら同診療部のOBなどがサポートしながら約50人が分担して常駐する。毎年、熱い思いを持った学生が高峰へ足を運び、登山者を守ろうとする活動が途切れることはない。
診療所の発足時から、その取り組みを知る塩沢さんは「診療所に命を救われた人々を何人も知っている。北岳診療所は南アルプスの守護神だ」と称賛する。
「診療所は医療的な処置だけでなく、心理的な安心感を与えるという両面での役割を担う。医師や医学生がその場にいることに意義がある」。こう話すのは北岳診療部長で同大薬学部の木内祐二教授。
北岳診療部は19日に夏山期間中の全日程を終了。36日間、国内第2の高峰を舞台に奮闘した診療所の夏が間もなく終わりを迎える。
2010年8月19日付 山梨日日新聞掲載