【連載】南アルプス 自然と人[7]
理想追い求める女性レンジャー 後世に残す活動一歩一歩
美しい高山植物や原生林が登山者の心を奪う南アルプス。手つかずの自然を後世に残そうと、さまざまな活動が進められている。その先頭に立つ役目を担うのが南アルプスの自然保護官だ。2008年10月に着任した宮沢泰子上席自然保護官(31)の取り組みは2年目を迎えた。
山梨、静岡、長野3県にまたがる南アルプス国立公園を管理する「環境省南アルプス自然保護官事務所」。宮沢さんの主な仕事は、公園内の開発許認可など事務のほか、植物の食害調査や保護対策、県や市町村など関係機関との調整だ。山々や関係施設を駆け回り、南アルプス市芦安支所にある事務所のいすに座ることはほとんどない。
出身は千葉県市川市。学生時代に仲間とよく山登りをしていて、自然を相手にした仕事をしたい、と環境省へ。「ありのままの自然の姿を後世に残すこと」。宮沢さんの掲げる理想だ。
多くの動植物が共存する南アルプス。希少な高山植物がクローズアップされることが多い。「構成するすべての自然が大切な資源」との思いはあるが、「現実的に何ができるか考えたときに優先順位を付けて保護しているのが現状」と話す。今年、北岳にしか咲かない希少種キタダケソウの保護対策に着手した。
シカの食害問題では昨年6月、3県のほか、関係市町など18機関の担当者が集まり「南アルプス高山植物等保全対策連絡会」が設置された。それぞれが蓄積しているシカの行動圏や食害情報を共有し、同じ方向を向いて活動しようというものだ。「各機関が連携して対策できる体制を築きたい」。宮沢さんの思いが一つの形になった。
「いまだに将来的にどうすればいいのか見えてこない」。自然に人が手を入れることの怖さ、難しさを知るがゆえの葛藤(かっとう)だ。「自然を相手に人ができることは限られているのかもしれない。それでもできることから一つずつやっていきたい」という宮沢さん。自然を守りたいという強い意志を持ってこの世界に飛び込んだ女性レンジャーは日々“答え”を追い続けている。
2010年7月22日付 山梨日日新聞掲載