南アルプス エコパーク登録 自然と振興 共生探る
自然保護と活用の両立を図る、国連教育科学文化機関(ユネスコ)生物圏保存地域「エコパーク」の登録を決めるMAB国際調整理事会がスウェーデンで開かれ、12日未明、山梨、長野、静岡の10市町村にまたがる南アルプスの新規登録が決まった。今後、10市町村は連携しながら、自然環境を生かした教育活動で住民の保護意識醸成を図り、魅力ある地域づくりや観光などの地域振興にもつなげたい考えだ。
対象35件の審査は日本時間の11日午後10時前に開始。南アルプス市役所には同日深夜から、関係する中込博文南アルプス市長、横内公明韮崎市長、白倉政司北杜市長、辻一幸早川町長が集まり、文部科学省からの連絡を待った。登録が決まり、中込市長は「人と自然が共生できる南アルプスを10市町村が一体となってつくっていきたい」と話した。
登録の名称は「南アルプス生物圏保存地域」(南アルプスユネスコエコパーク)。範囲は県内の南アルプス市と早川町の全域、韮崎市、北杜市の一部と長野、静岡県の計10市町村にまたがる30万2474ヘクタール。エコパークの面積としては国内最大。
自然の保全、活用の両立を理念とするエコパークは三つの地域に分類される。南アルプスでは、県境付近の高山帯を「核心地域」(2万4970ヘクタール)とし、自然環境を厳重に保全。核心地域に隣接する「緩衝地域」(7万2389ヘクタール)は、核心地域と移行地域の緩衝帯の機能を果たし、エコツーリズムや環境教育の場に利用する。甘利山(韮崎市)、櫛形山(南アルプス市)などが含まれる。「移行地域」(20万5115ヘクタール)は、住民が生活し、経済発展を図るエリアとし、市街地や農作地帯などが含まれる。
南アルプスは国内標高第2位の北岳(3193メートル)や3位の間ノ岳(3190メートル)など3千メートル級の山を有し、キタダケソウ、ライチョウなどの貴重な動植物が生息する。南アルプスについて、ユネスコの国際諮問委員会は4月の勧告で、登録を「承認」すべきだと評価していた。
南アルプスをめぐっては、2003年3月に開かれた環境省と林野庁による検討会で、世界自然遺産の候補地とした。しかし動植物の近縁種や同一種が近隣地域にも見られることなどから同年5月の検討会で富士山とともに最終候補地から落選した。山梨、長野、静岡の10市町村は「世界自然遺産の前段階」としてエコパーク登録を目指すこととして活動を展開。昨年9月に文科省の日本ユネスコ国内委員会が推薦書をユネスコ本部に提出した。
MAB国際調整理事会では、只見(福島)の新規登録も決まった。既に登録されている志賀高原(群馬、長野)の地域拡大も審議対象になっている。
【写真】南アルプスの白根三山。左奥から農鳥岳、間ノ岳、北岳=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から
理念の周知、浸透が課題
【解説】国立公園指定50周年を迎えた南アルプスが、エコパークとして新たな歴史を刻む。手つかずの自然保護を原則とする世界自然遺産とは異なり、理念は自然と経済活動などの両立。一定の開発は認められるものの、理念を浸透させながら、自然と調和のとれた地域をどう形成していくかが課題となる。
開発では、JR東海が南アルプスを貫くリニア中央新幹線のトンネル工事を計画している。出入り口は「移行地域」に当たり、文部科学省は登録への影響は小さいとしてユネスコ推薦に踏み切った。
しかし、山梨県立大の輿水達司特任教授は「トンネル掘削自体が生態系へ影響を及ぼすことは否めない」と指摘。石原伸晃環境相はJR東海が作成した環境影響評価(アセスメント)に対する意見書で、「相当な環境負荷が生じる」として南アルプスを通過する計画に対し、地元との十分な調整や意向尊重を求めている。3県の関係10市町村は連携し、環境保全の取り組みを求めていく必要がある。
世界遺産に比べ認知度が低いエコパークの理念を、住民や観光客にどう周知するかも課題となる。
10市町村はエコパーク登録を、国内の最終候補地から漏れた世界自然遺産登録を再び目指す「前段階」と捉える。南アルプスは毎年3~4ミリ隆起する世界でも珍しい現象があり、「富士山より成り立ちが古く、氷河時代の遺物がもたらす多様な動植物も生息・生育している」(輿水特任教授)点が利点との見方がある。世界自然遺産のより厳格な基準をクリアできるよう、まずはエコパークの理念に沿った地域づくりが問われる。
エコパーク
1976年からスタートし、昨年5月現在で117カ国、621地域を登録。世界自然遺産が自然環境の保護、保全を目的とするのに対し、生態系の保全と環境の利活用の調和が目的。国内では80年に「志賀高原」(群馬、長野県)、「白山」(石川、岐阜、富山、福井県)、「大台ケ原・大峰山」(奈良、三重県)、「屋久島」(鹿児島県)、2012年に「綾」(宮崎県)の計5カ所が登録されている。
(2014年6月12日付 山梨日日新聞)
対象35件の審査は日本時間の11日午後10時前に開始。南アルプス市役所には同日深夜から、関係する中込博文南アルプス市長、横内公明韮崎市長、白倉政司北杜市長、辻一幸早川町長が集まり、文部科学省からの連絡を待った。登録が決まり、中込市長は「人と自然が共生できる南アルプスを10市町村が一体となってつくっていきたい」と話した。
登録の名称は「南アルプス生物圏保存地域」(南アルプスユネスコエコパーク)。範囲は県内の南アルプス市と早川町の全域、韮崎市、北杜市の一部と長野、静岡県の計10市町村にまたがる30万2474ヘクタール。エコパークの面積としては国内最大。
自然の保全、活用の両立を理念とするエコパークは三つの地域に分類される。南アルプスでは、県境付近の高山帯を「核心地域」(2万4970ヘクタール)とし、自然環境を厳重に保全。核心地域に隣接する「緩衝地域」(7万2389ヘクタール)は、核心地域と移行地域の緩衝帯の機能を果たし、エコツーリズムや環境教育の場に利用する。甘利山(韮崎市)、櫛形山(南アルプス市)などが含まれる。「移行地域」(20万5115ヘクタール)は、住民が生活し、経済発展を図るエリアとし、市街地や農作地帯などが含まれる。
南アルプスは国内標高第2位の北岳(3193メートル)や3位の間ノ岳(3190メートル)など3千メートル級の山を有し、キタダケソウ、ライチョウなどの貴重な動植物が生息する。南アルプスについて、ユネスコの国際諮問委員会は4月の勧告で、登録を「承認」すべきだと評価していた。
南アルプスをめぐっては、2003年3月に開かれた環境省と林野庁による検討会で、世界自然遺産の候補地とした。しかし動植物の近縁種や同一種が近隣地域にも見られることなどから同年5月の検討会で富士山とともに最終候補地から落選した。山梨、長野、静岡の10市町村は「世界自然遺産の前段階」としてエコパーク登録を目指すこととして活動を展開。昨年9月に文科省の日本ユネスコ国内委員会が推薦書をユネスコ本部に提出した。
MAB国際調整理事会では、只見(福島)の新規登録も決まった。既に登録されている志賀高原(群馬、長野)の地域拡大も審議対象になっている。
【写真】南アルプスの白根三山。左奥から農鳥岳、間ノ岳、北岳=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から
理念の周知、浸透が課題
【解説】国立公園指定50周年を迎えた南アルプスが、エコパークとして新たな歴史を刻む。手つかずの自然保護を原則とする世界自然遺産とは異なり、理念は自然と経済活動などの両立。一定の開発は認められるものの、理念を浸透させながら、自然と調和のとれた地域をどう形成していくかが課題となる。
開発では、JR東海が南アルプスを貫くリニア中央新幹線のトンネル工事を計画している。出入り口は「移行地域」に当たり、文部科学省は登録への影響は小さいとしてユネスコ推薦に踏み切った。
しかし、山梨県立大の輿水達司特任教授は「トンネル掘削自体が生態系へ影響を及ぼすことは否めない」と指摘。石原伸晃環境相はJR東海が作成した環境影響評価(アセスメント)に対する意見書で、「相当な環境負荷が生じる」として南アルプスを通過する計画に対し、地元との十分な調整や意向尊重を求めている。3県の関係10市町村は連携し、環境保全の取り組みを求めていく必要がある。
世界遺産に比べ認知度が低いエコパークの理念を、住民や観光客にどう周知するかも課題となる。
10市町村はエコパーク登録を、国内の最終候補地から漏れた世界自然遺産登録を再び目指す「前段階」と捉える。南アルプスは毎年3~4ミリ隆起する世界でも珍しい現象があり、「富士山より成り立ちが古く、氷河時代の遺物がもたらす多様な動植物も生息・生育している」(輿水特任教授)点が利点との見方がある。世界自然遺産のより厳格な基準をクリアできるよう、まずはエコパークの理念に沿った地域づくりが問われる。
エコパーク
1976年からスタートし、昨年5月現在で117カ国、621地域を登録。世界自然遺産が自然環境の保護、保全を目的とするのに対し、生態系の保全と環境の利活用の調和が目的。国内では80年に「志賀高原」(群馬、長野県)、「白山」(石川、岐阜、富山、福井県)、「大台ケ原・大峰山」(奈良、三重県)、「屋久島」(鹿児島県)、2012年に「綾」(宮崎県)の計5カ所が登録されている。
(2014年6月12日付 山梨日日新聞)