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地図を開き、登山者にアドバイスする高妻潤一郎さん(左)
南アルプスの標高2200メートル地点にある白根御池小屋。開山した6月26日は雨となり、山小屋のロビーには、テレビに映る天気図を食い入るように見つめる登山者たちの姿があった。 「この様子じゃ明日は荒れるかもしれませんね」「稜線(りょうせん)に出ると強風が心配されるので気をつけてください」 管理人を務める高妻(こうづま)潤一郎さん(46)は、登山者たちに丁寧に助言する。 長年の山とのつきあいで、登山者の死を目の当たりにした経験を持つ山小屋の人々にとって、登山者の安全確保への思いは人一倍強い。高妻さんもその一人だ。 20代で本格的に登山を始めた。山岳ツアーのリーダーなどとして、アフリカの最高峰・キリマンジャロ(標高5895メートル)など世界の山々を巡り、ツアー客を安全に山頂へと導いた。南アルプスの山小屋で働き始めたのは2005年。昨年からは管理人となり、登山者の安全に心を砕いてきた。 「登山者への助言も(山小屋の)仕事です」と高妻さん。山の怖さを知るからこそ、どんなに忙しいときでも、真剣にアドバイスを送る。雲行きや風、天気図などに加えて、山での豊富な経験が助言に生きてくる。 ただ、「あくまで助言は最良の選択肢を提示することで、最後の選択は登山者自身です」とも言う高妻さん。1シーズンに延べ4000人が利用するという白根御池小屋。「無事に戻ってきて、また元気な顔を見せてください」-。そんな願いを秘め、登山者を見送る日々が今年も続く。 (次回は、今月下旬に掲載します)
2010年7月3日付 山梨日日新聞掲載