2024.8.03 News /

〈6〉希少な高山チョウに危機

高山チョウの現状について説明する北原正彦さん=南アルプス市内

美しさ知り「宝」後世へ

 「いつ見ても美しい」。7月中旬、南アルプス市内の南アルプス山系。元県富士山科学研究所副所長の北原正彦さん(68)=甲府市=は、クガイソウの蜜を吸うミヤマシロチョウを見つめ、感嘆の声を漏らした。

 南アルプスには高山チョウ7種が生息し、国内最南端の生息地となっている。北原さんは15年ほど前から南アルプスに足を運び、分布の状況や個体数などを調査してきた。

 2014年のエコパーク登録前、南アルプスでは希少性の高い高山チョウの高値での取引を目的とした乱獲が問題になっていた。天然記念物に指定されていた長野県側では文化財保護条例により守られていたが、山梨県側では当時、規制がなかった。北原さんは「採っている人を見かけても『採りすぎないようにして』と注意するしかなく、悔しかった」と振り返る。

 南アルプス市の求めなどを受け県は19年、6種を保護条例の対象に加えて指定希少野生動植物種に登録。18年に国内希少野生動植物種に指定されたタカネキマダラセセリを含む全7種の採取が規制された。それでも「減少には歯止めがかかったが、採取する人を目撃したこともあり密猟が完全にないわけではない」と話す。

 高山チョウの生息環境も厳しい状況にある。19年に県営林道南アルプス線で土砂崩落が起き、車が通れなくなったことで管理捕獲が休止し、ニホンジカの出没数が増加。クガイソウなど高山チョウの餌となる植物が食害に遭っているという。

 「高山チョウはライチョウやキタダケソウよりマイナーかもしれないが、南アルプスにしかいない種がいる。県民には美しさを知ってもらい、保全の意識を高めてほしい」(北原さん)。ここにしかない「宝」を見つめ、守り続ける。

【南アルプスの高山チョウ】 現在、7種が生息し、国内では北アルプス(8種)に次いで多い。雄のクモマツマキチョウはオレンジ色の模様が特徴で、「高山チョウの女王」と称される。ミヤマシロチョウの雌は半透明なのが特徴。八ケ岳ではほぼ絶滅状態で、山梨県内で見られるのは南アルプスのみとされる。

(山梨日日新聞 2024年8月3日掲載)

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