人と自然共生へ 3県連携
南ア エコパーク登録10年

南アルプスの北岳(右)。左奥に間ノ岳、農鳥岳が連なる=山日YBSヘリ「ニュースカイ」(NEWSKY)から

 山梨、静岡、長野の3県10市町村にまたがる南アルプスが国連教育科学文化機関(ユネスコ)のエコパークに登録され、今年6月で10年となる。標高が国内2位の北岳(3193メートル)、3位の間ノ岳(3190メートル)などの高峰があり、ライチョウやキタダケソウなどの希少な動植物が生息する地域。登録後の地域の歩みを振り返り、課題を探る。

 山梨、長野、静岡3県の10市町村はエコパーク登録後、2016年に「南アルプス自然環境保全活用連携協議会」を設置した。現在は2カ月に1回、10市町村が持ち回りで協議会を開催。各自治体の職員らが集まり、南アルプスに生息し絶滅が危惧されるライチョウの保護や、ニホンジカの食害対策などの取り組みに関し、情報を共有している。
 南アルプスを構成する自治体は自然環境の類似点が多い。ライチョウ保護に向け、協議会は16~18年度、3県と首都圏で一般向けの「サポーター養成講座」を開催。ライチョウの生息可能な自然環境、保護活動の在り方などを学ぶ講座の修了者は18年度までに866人を数えた。
 サポーターは登山時にライチョウを目撃した際、調査用に取り付けられた足輪の色や目撃場所をメールなどで環境省に報告。同省は収集した情報を基に個体を識別し、南アルプスでのライチョウの生息状況把握などに生かしている。
 エコパーク内で、人が生活し地域社会の発展を目指す「移行地域」など人の生活圏では、外来植物の駆除や繁殖防止への取り組みも進む。南アルプス市は昨年、繁殖力が強いオオキンケイギクなどを市内や南アルプスに持ち込まないよう、櫛形山登山道の入り口に種子を落とすマットを設置した。市は広報紙に外来種の駆除方法を掲載して協力を呼びかけている。
 韮崎、南アルプス、北杜、早川の山梨県内4市町でつくる南アルプスユネスコエコパーク県連絡協議会も月1回会議を開き、環境保全活動や研究の報告などをしている。
 エコパーク登録の目的や意義についての認知度をどう向上させるかは依然課題だ。南アルプス市が23年5月に実施した市民アンケートでは、エコパークや市の取り組みなどを「知っている」と回答した人は32・4%にとどまった。関係者の間では、世界自然遺産などに比べエコパークは認知度が低く、理念が浸透しにくいとの指摘がある。

【ズーム】エコパーク
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)が1976年に創設。手つかずの自然保護が原則の「世界自然遺産」とは異なり、自然と人間社会の共生を目指す地域と位置づけている。長期的に自然環境を保全する「核心地域」、環境教育などに利用する「緩衝地域」、人が暮らして持続可能な地域社会の発展を目指す「移行地域」で構成する。登録総数は134カ国の738地域(2022年6月現在)。国内は10地域。山梨県内が含まれるエコパークは南アルプスのほか、19年に登録された甲武信ケ岳とその周辺地域がある。

(山梨日日新聞 2024年1月3日掲載)

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