芦安山岳館企画展「追悼 平賀淳 キロク キオク RECORDED-MEMORY」

世界の頂 挑み続けて

 昨年5月18日に米・アラスカ州の山で滑落して亡くなった、山岳カメラマン平賀淳さん=甲斐市出身=の企画展「追悼 平賀淳 キロク キオク RECORDED-MEMORY」(南アルプス市、山梨日日新聞社、山梨放送主催)が、同市芦安芦倉の市芦安山岳館で開かれている。平賀さんがヒマラヤで撮影した写真や遺品などを展示。市の担当者は「作品を通して平賀さんの人柄が伝わってくる。多くの人に見てほしい」と話している。

 平賀さんは韮崎高卒業後、日本映画学校(現日本映画大学)に進学。山岳カメラマンとして海外の山々を撮影したほか、世界の自然を舞台にタイムを競うアドベンチャーレースに日本代表として参戦するなど山岳競技でも活躍した。
 企画展では、エベレストやヒマラヤのさまざまな表情を撮影した写真を展示している。登山時に使用していたテントや、事故時に装着していたサングラスなどの登山道具も並び、計100点以上に。山岳仲間が撮影した登山中の平賀さんの写真や、ヒマラヤ登山に同行したアルピニスト野口健さんが平賀さんに宛てた追悼文もある。
 市の担当者は「平賀さんの家族をはじめ、山岳仲間が協力してくれたからこそ開催できた。準備を進めるうちに平賀さんの人柄を実感できた」と涙を浮かべる。「撮影中の平賀さんの表情が印象的。できるだけのものを展示したので、ぜひ平賀さんの作品を見てほしい」と続けた。
 企画展は来年3月10日まで。入館料は大人(中学生以上)500円、子ども(小学生)250円。午前9時~午後5時。8月31日までは無休で、9月以降は水曜日、年末年始(12月27日~1月3日)が休館。問い合わせは市芦安山岳館、電話055(288)2125。

「太陽のような存在」妻・洋美さん 人柄しのぶ

平賀淳さんの写真に並ぶ妻・洋美さん。「太陽のような存在だった」と話す=南アルプス市芦安山岳館

 平賀淳さんは生前、「やりたいことリスト」に写真展の開催をリストアップしていたという。「こういう形ではあるが夢がかなって、夫は喜んでいると思う」。妻の洋美さん(44)=川崎市在住=は、展示されている写真を見ながら目を細めた。
 平賀さんは登山から帰宅すると撮影時の失敗談をよくしてくれたという。登山中でも電話がつながる場所からは連絡をくれたり、写真を送ってくれたり。いろいろと話してくれたそうだが、「仕事がつらいという話は聞いたことがなかった」。
 平賀さんの人柄は「元気で明るく、太陽のような存在だった」。「失敗しても、きっと何かの足しになる」と前向きで、挑戦を続けた姿が焼き付いている。中学1年生になる長男とも仲が良く、よくゲームで遊んでいたという。
 平賀さんの死については、まだ実感がないという。1年のうち3分の2は仕事で出ていたそうで、「まだ仕事に行っているような感覚。家での会話でも生前と変わらず夫の話題が出る」。
 平賀さんの仕事を振り返って、「安全に気を配っていたので止めたことはなかった。危険を感じたら引き返すため、登山をすることに不安はなかった」。
 洋美さんのお気に入りの写真は「聖夜とエベレスト」。聖夜の星空と、昇り始めた朝日に照らされたエベレストを収めている。光を大事にして撮影した平賀さんの人柄が感じられるという。「家では簡単に行ってきたように話したが、過酷さの中で美しい風景を撮影したことが分かる。一緒に行ったかのような気持ちになる」と作品を見つめた。
 企画展に並ぶ平賀さんの写真に「こんなに過酷な山を登っていたんだ」と改めて驚いたという洋美さん。「カメラに縁遠かった人が挑戦したことを知ってほしい。『こんな人もいたんだ』と思い、挑戦するきっかけになってくれればうれしい」

(山梨日日新聞 2023年8月11日掲載)

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