南アルプス山域の古地図 復刻
芦安山岳館 昭和初期の姿伝える
南アルプス市芦安芦倉の芦安山岳館は、昭和初期に発行された古地図「白根山近傍図」を復刻販売している。南アルプス・白根三山やその周辺地域を5万分の1で表した古地図は、当時の南アルプス山域や麓の市街地の世相を伝える重要な資料で、担当者は「現代の地図と見比べて楽しんでほしい」と話している。
山岳館によると、古地図は縦63センチ、横88センチ。現在の国土地理院の前身、陸軍参謀本部陸地測量部が1931年に発行した。
「日本の近代登山の父」と呼ばれる英国人宣教師ウォルター・ウェストン(1861~1940年)らの尽力により、登山を娯楽やスポーツとして楽しむ考え方が一般の人々に広がる中、明治期から戦略的に測量していた地形図を一般の登山者向けに発行。当時の北岳の測量の様子はウェストンの著書にも記されている。
地図上には、登山者が安全に山を登れるように登山道が分かりやすく示されているほか、山小屋の位置を記すなど、近代登山を強く意識した記載が見られる。現在は閉山した鉱山や発電所の位置も示され、南アルプス山域の変化も分かる。山の麓の峡北、峡中地域の市街地の地図もあり、当時建設中だった、「ボロ電」の愛称で親しまれた山梨交通電車線の線路図も描かれ、まちの姿が分かる資料にもなっている。
古地図は山岳館が所蔵。ウェストンの北岳登頂から今年で120年を迎え、来館者から「ウェストンが登っていた当時の地図がほしい」との声を受けて復刻した。実物と同じサイズで限定300部作成し、1部400円で販売している。
山岳館の担当者は「近代登山が広がるきっかけにもなった大切な資料。古地図を通じて多くの人に歴史を知ってもらいたい」と話している。
(山梨日日新聞 2022年8月3日掲載)