判断ミス、経験者が過信? 北岳での遭難 死者2人、不明1人 昨秋から相次ぐ 南アルプス署「十分な装備、計画を」
南アルプス・北岳(3,193メートル)で、昨年秋から登山者の遭難が相次いでいる。急病人の救助を含めて3件あり、死者2人、行方不明者1人、負傷者は4人に上る。いずれも冬山経験者を含むパーティーだが、軽装で吹雪に巻き込まれたり、雪崩の多発地帯に入ったりといった「単純な判断ミス」(関係者)が目立つ。南アルプス署は「十分な装備と計画を立てて山に入ってほしい」と呼び掛けている。
「体調の変化を見抜けなかった私のミスです」。千葉県から訪れた会社員男性(47)は13日、北岳登山中に急病になった妻(34)が前日救助されたことについてこう話した。
ヨーロッパ・アルプスの4000-5000メートル級の山々を登った経験もあった夫婦は、8日に南巨摩郡早川町から南アに入山。翌日、池山吊り尾根ルートを経て北岳山荘に着いた時には、妻が体調不良を訴えていた。
山荘内でも氷点下20度を超える寒さ。充電したばかりの携帯電話の電池はすぐに切れ、県警への救助要請は伝わらなかった。11日、発熱で意識がもうろうとする妻を残し、吹雪の中、コンパスを頼りに腰までの雪をかき分けて単独下山し、同町奈良田の建設会社の事務所に駆け込んだ。
一刻を争う救助。県警に助けを求める一方、1時間あたり約50万円の民間の山岳救助ヘリをチャーターした。「できることをするのが自己責任と思う。自分に足りない部分があった」と男性は振り返る。
しかし山岳関係者は「厳冬期の北岳に2泊3日の日程で入ったこと自体に疑問がある。5日間から1週間を見込むのが常識」と指摘する。
昨年の大みそかには東京から来た男女3人が下山中に雪崩に巻き込まれた。女性1人が今も行方不明になったままだ。
現場は八本歯から約500メートル下った大樺沢。傾斜が緩やかで夏は主要ルートになるが、雪崩の頻発する冬は「雪崩の巣」と呼ばれ、地元の山岳関係者も近づかない。
この時も短時間に5度の雪崩が襲った。救助関係者に対し、メンバーの一人は「(雪崩が多いことは知っていたが)雪の状態を見て大丈夫だと思った」と話したという。
昨年10月末には関西から山岳写真の撮影に来た60歳代の男性3人が吹雪で遭難。1人が凍死、1人が滑落死した。凍死した男性は軽装だった。
北岳に詳しい広河原山荘の塩沢久仙さんは「ヒマラヤの8000メートル級も北岳も山の厳しさに変わりはない」と強調。「冬山では緻密(ちみつ)な計画、周到な準備をしても遭難を避けられないことがある。捜索や救助活動による二次災害の危険も伴う。死と背中合わせであることを胸に、責任の持てる登山をしてほしい」と話している。
【写真】晴れ間を見て北岳に救助活動に向かう民間ヘリ=南アルプス市芦安安通(12日)
(山梨日日新聞 2005年1月19日付)