【連載】南アルプス 自然と人[2]
咲き誇るキタダケソウ 国内唯一の自生地、後世へ
南アルプスが誇る高山植物の代名詞ともいえるキタダケソウ。国内第2の高峰・北岳(標高3193メートル)にのみ自生し、標高2900~3100メートル地点の高地で咲き誇る。標高日本一の座は富士山に譲っても、霊峰にはない魅力だ。群生地までの険しい道のりにもかかわらず、毎年多くのファンを魅了し続ける。
「初めて見た時の感動が今も忘れられない」。今月27日、厳しい風雨の中、南アルプス市上高砂の斉藤泰昭さん(71)は今年も群生地へ足を進めた。長く険しい道のりを乗り越えて、花と出合う喜びはひとしお。「年齢的にもつらいが、それでも行く価値がある」と力が入る。
NPO法人芦安ファンクラブによると、今シーズンは早いところで6月上旬に開花。冬を越え、雪解けとともに咲き始め、気温が上がるにつれて見ごろは徐々に高地へ移る。今季は開花が例年より2週間ほど遅れていて、場所によっては7月下旬まで楽しめそうだという。
氷河期からの遺存種とされるキタダケソウ。その魅力は見た目の美しさだけにはとどまらない。ある男性は「人は住めない過酷な環境下で、雨の日も風の日もちゃんと咲いている」と話し、かれんさの裏に秘めたたくましさに感動を覚えるという。
今年、環境省が保護対策に乗り出す。シカの食害が危惧(きぐ)される群生地の一部に防護柵を設置し、被害に遭う前に先手を打って守ろうという試みだ。「地元の誇りであり、いつまでも後世に残っていてほしい」と語った斉藤さん。多くのファンが何年先も変わらずに姿を見せてくれることを願っている。
■キタダケソウ
キンポウゲ科の多年草。北岳山頂近くの南東斜面38.5ヘクタールに、10万~15万株が自生していると推定されている。草丈は10~15センチ程度で、直径2センチほどの白い花を咲かせる。県のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている。
2010年6月30日付 山梨日日新聞掲載