【連載】エコパーク登録 南アルプス新時代 [2]
リニア 保護と開発両立は… 環境影響 消えない不安
早川のせせらぎ、鳥のさえずりが聞こえる早川町新倉の県道沿い、工事用ゲートの向こうに高さ4メートルほどの巨大な穴が見える。JR東海が奥行き約2キロにわたって行った試掘現場だ。周辺はリニア中央新幹線のトンネル建設予定地となっている。
町内に住む男性(70)は「試掘現場を見た時、環境や動植物への影響が少なからずあると感じた。不安で心配。将来、負の遺産とならないよう、環境に配慮した計画で進めていってほしい」と話す。
「移行地域」
JR東海が2027年に東京-名古屋間での開通を目指すリニア中央新幹線の計画では、南アルプスを長大トンネルが貫く。トンネルが通過するのは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の生物圏保存地域(エコパーク)で、自然を厳重に保護すべきとされる「核心地域」や「緩衝地域」の直下。出入口は、住民が暮らす「移行地域」となる。
JR東海は環境影響評価(アセスメント)で「南アルプスとリニアの共存は十分可能」と説明。文部科学省はエコパーク登録への影響は少ないとしてユネスコへ推薦した。しかし専門家らからは、リニア建設で、生態系や地下水へ影響が出る可能性があるとの指摘は根強い。
石原伸晃環境相も意見書で「相当な環境負荷が生じる」として、南アルプスを貫く計画について、地元との十分な調整や意見尊重を求めた。
南アルプスの形成を研究する山梨県立大特任教授の輿水達司さんによると、地下水は「どこをどのように、どのくらいの量が通っているかは完全には分かっていない未知の世界」。南アルプスに長大トンネルを掘れば「地下水脈に影響が出る可能性があり、生態系にも何らかの影響を与える可能性が高い」と指摘する。
地域づくり
掘削したトンネルの残土処理は、県が活用策をJR東海に提示、早川町が町営住宅用地造成での利用を検討するなどしているが、ほとんど決まっていない。輿水さんは「適正に処理されなければ土石流災害の素材となり、人災にもつながりかねない」と話す。
トンネルの出入口は移行地域に造られるとはいえ、過度な開発はエコパーク全体に影響しかねない、との見方もある。静岡大名誉教授で、南アルプス総合学術検討委員会委員長を務める佐藤博明さんは「核心、緩衝、移行の三つのゾーンは機能上一体で、一つながりのものと見たとき、移行地域での環境かく乱は、そのまま他の二つのゾーンの支援機能を失い、エコパークの目的そのものを損ねることになる」と懸念する。
人々が暮らし、経済発展を図るエリアとされる移行地域ではこのほか、さまざまな計画が進む。南アルプス市は、中部横断自動車道南アルプスインターチェンジ南側に、農業体験や直売店などを備えた農林業の6次産業化施設「南アルプス完熟農園」の整備を進めている。中込博文市長は「移行地域では農林業を中心としたまちづくりを目指したい。エコパークの理念に合致した事業と考える」と話す。
行政の計画はもちろん、民間にも理解を求めながらエコパークの理念を生かした地域づくりをどう進めていくか。関係自治体の姿勢と、連携しての対応が問われることになる。
リニア中央新幹線計画 JR東海が発表したリニア中央新幹線計画の概要によると、南アルプスを貫通するトンネルは延長約25キロ。早川町の県道南アルプス公園線の新青崖トンネルの下を交差する地点を入り口に、静岡県静岡市を経由して長野県大鹿村に至るルート。トンネルの構造は横幅約13メートル、高さ約6.5メートル、断面積約74平方メートルの規模。最深部は地中1.4キロ。
2014年6月16日付 山梨日日新聞掲載