【連載】エコパーク登録 南アルプス新時代 [1]
自然遺産への「ステップ」 希少種保護 連携が課題
南アルプスの登山口・夜叉神から広河原に通じる林道が開通する6月下旬、訪れる登山者らに交じって毎年、白い捕獲網を手にする人の姿もある。「背負った荷物に折り畳み式の網を入れるなど、チョウコレクターや業者と見られる人も少なくない」(山小屋関係者)。
高値で取引
南アルプスの亜種であるクモマツマキチョウやタカネキマダラセセリは、マニアの間では人気が高く高値で取引されるという。長野県では天然記念物に指定され、文化財保護条例で守られている。しかし山梨県側では、動植物の採取が禁じられた国立公園の特別保護地区以外では、採取を規制する条例などはない。
クモマツマキチョウが卵を産み付ける食草の高山植物ミヤマハタザオは自然公園法で採取が禁止され、環境省や南アルプス署などがパトロールをしているが、チョウは対象外。県みどり自然課は「県のレッドデータでは準絶滅危惧種で、そこまで危機的状況であるとは考えていない」とし、現時点では条例制定の予定はないとしている。
このような状況に、南アルプス市芦安山岳館の塩沢久仙館長は「採取を規制するバックボーンがない山梨では、このままだと貴重な高山チョウたちは近い将来捕り尽くされる。早急に手を打たなければ絶滅する可能性がある」と危機感を募らせる。
植生に影響
南アルプスにはチョウのほかにも、多様性に富んだ山岳自然環境が残り、国の特別天然記念物のライチョウをはじめさまざまな高山動植物が生息する。こうした動植物を乱獲や盗掘などが脅かしてきたが、近年脅威となっているのがニホンジカの存在だ。
シカの生息域は従来、標高1500メートル程度までとされていたが、狩猟者の減少や温暖化の影響で、1990年代後半から2600メートル以上の高山帯でも頻繁に目撃されるようになった。そのためシカの食害が深刻化している。
南アルプス市で昨年開かれたライチョウ会議では、白根三山北部(北岳、間ノ岳)でライチョウの縄張りが約30年前の7分の1に減少しているとの発表があった。高山帯へのシカの進出で、ただでさえ激減しているライチョウの生息域はどうなるか…。
南アルプス国立公園を管理する環境省の中村仁自然保護官は「シカの食害を解決しなければ、植生全体に影響を及ぼしかねない」と心配する。
世界自然遺産登録を目指しながら、国内最終候補地から漏れた経緯のある南アルプス。構成する山梨、長野、静岡3県の10市町村は、エコパーク登録をあくまで、再び自然遺産を目指す前段階と捉えている。南アルプス市の中込博文市長は「エコパーク登録はゴールでなくスタート。基準の厳しい自然遺産に向け、山梨県内でも高いレベルで自然保護を図っていく必要がある」と話す。自治体間で異なる規制を統一するなど、エリア全体で連携していかに保護策を徹底するかが課題となる。
自然遺産登録を現実のものとするには、「100年後の子どもたちに笑われない山にしていくよう、入山者だけでなく受け入れ側の姿勢が重要となる」(塩沢館長)。
南アルプスの希少動植物
国の特別天然記念物ライチョウや、北岳にしか生息していないキタダケソウが知られる。ほかにも県のレッドデータブックで準絶滅危惧に指定されている、ミヤマシロチョウや、県指定の希少種となっているタカネビランジやタカネマンテマ、アツモリソウなどの高山植物が生育、生息する。
2014年6月15日付 山梨日日新聞掲載