「富士山に続け」期待広がる 南アルプスのエコパーク推薦決定 地元「世界自然遺産へ一歩」
南アルプスが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が認定するエコパークに推薦されることが決まった4日、麓の市町村に「これまでの準備が報われた」「奇跡に近い」と喜びの声が広がった。これまで国が推薦した5件はいずれも登録されているため、登録の可否が決まる来年6月に向け、関係者の期待は大きい。地元市町村はエコパーク登録を世界自然遺産へのステップと位置付けており、「世界文化遺産に登録された富士山に続くための、大きな一歩」との声も聞かれた。
【写真】ユネスコが認定するエコパークに国内推薦されることが決まった南アルプス。荒川岳から赤石岳を望む
「苦労したかいがあった」。4日午後、電話で推薦が決まったとの一報を受けた中込博文南アルプス市長は、安堵(あんど)の表情を浮かべた。取材に「これまで準備してきたことが報われて本当に良かった。ただ、これからが登録に向けた本番だ」と語った。
山梨、長野、静岡3県の10市町村でつくる「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」はエコパーク登録を世界自然遺産登録へのステップとして位置付けている。協議会を構成する北杜市の白倉政司市長は「世界自然遺産登録に向けても大きな一歩。時間はかかるかもしれないが、世界文化遺産に登録された富士山に続きたい」と喜んだ。
「推薦決定は奇跡に近い」と話したのは同協議会ユネスコエコパーク登録検討委員会で委員長を務める増沢武弘静岡大特任教授。エコパーク登録に向けたこれまでの活動を振り返り、「当初はエコパークはほとんどの住民が知らず、仕組みの説明に奔走した。10市町村の意思統一も難しかっただけに、推薦の決定は本当にうれしい」と話した。
一方、地元住民からも喜びの声が聞かれた。南アルプス市小笠原のパート中込保波さん(54)は「自然豊かな場所として認められてうれしい。市の認知度が高まる効果を期待したい」と感想。同市山寺の団体職員東条良男さん(61)は「自然保護の観点で選ばれるのは大歓迎だ」と話した。
南アルプスの自然保護活動をしている同市のNPO法人芦安ファンクラブの塩沢久仙さん(71)は、今後の自然保護の在り方について「地球温暖化による自然の変化など、しっかりモニタリングをしていく必要がある。素晴らしい自然を未来につなぎたい」と気持ちを引き締めていた。
今年5月に開かれた10市町村の協議会では、中込博文南アルプス市長が3県にまたがる周回遊歩道「南アルプストレイル」の整備を提案。エコパーク登録に向け、厳格な保全が求められる「核心地域」への登山者らの流入を抑制し、10市町村の結束をアピールする狙いがあったが、出席者らは「どんな経済的なメリットがあるのか」などと慎重論があり、提案は棚上げされたままだ。
市みどり自然課の担当者は「10市町村の意見を集約するには相当時間がかかる。登録が実現した場合でもネックになりかねない」との見方を示す。
住民への周知も課題だ。世界自然遺産と比べ、エコパークの認知度は低く、県内4市町が昨年11月からことし3月にかけて計画した計4回の住民説明会は、参加者が集まらず1回に集約された。世界遺産が保護や保全の側面が強調されるのに対し、エコパークは保全と開発の「調和」を促す制度。地元住民からは一定の開発が許されることに「分かりにくい」との声もある。
同課の杉山啓子課長は「エコパークの取り組みは住民全体で実施することが前提。情報発信を行い、登録に向けて住民の機運を盛り上げていきたい」と話している。
(山梨日日新聞 2013年9月5日付)
【写真】ユネスコが認定するエコパークに国内推薦されることが決まった南アルプス。荒川岳から赤石岳を望む
「苦労したかいがあった」。4日午後、電話で推薦が決まったとの一報を受けた中込博文南アルプス市長は、安堵(あんど)の表情を浮かべた。取材に「これまで準備してきたことが報われて本当に良かった。ただ、これからが登録に向けた本番だ」と語った。
山梨、長野、静岡3県の10市町村でつくる「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」はエコパーク登録を世界自然遺産登録へのステップとして位置付けている。協議会を構成する北杜市の白倉政司市長は「世界自然遺産登録に向けても大きな一歩。時間はかかるかもしれないが、世界文化遺産に登録された富士山に続きたい」と喜んだ。
「推薦決定は奇跡に近い」と話したのは同協議会ユネスコエコパーク登録検討委員会で委員長を務める増沢武弘静岡大特任教授。エコパーク登録に向けたこれまでの活動を振り返り、「当初はエコパークはほとんどの住民が知らず、仕組みの説明に奔走した。10市町村の意思統一も難しかっただけに、推薦の決定は本当にうれしい」と話した。
一方、地元住民からも喜びの声が聞かれた。南アルプス市小笠原のパート中込保波さん(54)は「自然豊かな場所として認められてうれしい。市の認知度が高まる効果を期待したい」と感想。同市山寺の団体職員東条良男さん(61)は「自然保護の観点で選ばれるのは大歓迎だ」と話した。
南アルプスの自然保護活動をしている同市のNPO法人芦安ファンクラブの塩沢久仙さん(71)は、今後の自然保護の在り方について「地球温暖化による自然の変化など、しっかりモニタリングをしていく必要がある。素晴らしい自然を未来につなぎたい」と気持ちを引き締めていた。
3県10市町村、国内最大 保全と開発 調整が課題
ユネスコのエコパークとして推薦が決まった南アルプスのエリアは山梨、長野、静岡3県の10市町村、30万ヘクタール以上に広がり、面積は既に登録された国内の5カ所より大きい。登録が決まった場合、10市町村は生態系保護の具体的方策などを盛り込んだ保存運営計画を策定するが、スムーズに利害調整ができるかが課題になりそうだ。今年5月に開かれた10市町村の協議会では、中込博文南アルプス市長が3県にまたがる周回遊歩道「南アルプストレイル」の整備を提案。エコパーク登録に向け、厳格な保全が求められる「核心地域」への登山者らの流入を抑制し、10市町村の結束をアピールする狙いがあったが、出席者らは「どんな経済的なメリットがあるのか」などと慎重論があり、提案は棚上げされたままだ。
市みどり自然課の担当者は「10市町村の意見を集約するには相当時間がかかる。登録が実現した場合でもネックになりかねない」との見方を示す。
住民への周知も課題だ。世界自然遺産と比べ、エコパークの認知度は低く、県内4市町が昨年11月からことし3月にかけて計画した計4回の住民説明会は、参加者が集まらず1回に集約された。世界遺産が保護や保全の側面が強調されるのに対し、エコパークは保全と開発の「調和」を促す制度。地元住民からは一定の開発が許されることに「分かりにくい」との声もある。
同課の杉山啓子課長は「エコパークの取り組みは住民全体で実施することが前提。情報発信を行い、登録に向けて住民の機運を盛り上げていきたい」と話している。
(山梨日日新聞 2013年9月5日付)