高山植物 踏み荒らし多発北岳周辺 防護ネット求める声登山者、写真撮影で群生地へ?

 南アルプス・北岳周辺の高山植物の群生地で、登山者が希少種のキタダケソウなどを踏み荒らすケースが増加している。山岳関係者によると、登山ブームで登山者が増える中、高山植物の価値が広く知られ、近くで写真を撮ろうと群生地に入り込んでいるとみられる。北岳では以前、高山植物の盗掘やニホンジカによる食害が深刻化し、山梨県が罰則規定を盛り込んだ条例を制定したり、環境省が防護柵を設置したりして対応を進めてきたが、踏み荒らしには現在、有効な手だてがない状況。関係者の間では、防護ネットの設置などを含めた被害防止に向けた対応を取るべきだとの声が上がっている。

 地元山岳関係者によると、北岳有数の高山植物の群生地である池山吊尾根から北岳山荘に向かうルート(標高2950メートル付近)では、約5年前から、高山植物の群生地に踏み込んだ靴の跡が複数確認されている。花が咲く箇所に一歩一歩進むような靴の跡などから、荒らす目的ではなく、写真を撮影するために入り込んでいるとみられるという。

 北岳では毎年6月下旬~11月上旬に、環境省職員や地元の山岳関係者が盗掘の防止や高山植物の生育状況調査を目的に、広さ約38.5ヘクタールのキタダケソウの生育保護区をパトロールしている。範囲が広く、踏み荒らす現場に遭遇することはほとんどなく、被害を防ぐのは難しいという。注意を喚起する看板を設置しているが、被害は後を絶たない。一度踏み荒らされると、植物が育たないケースもある。

 北岳周辺の環境保護活動などに取り組む地元山岳関係者らでつくるNPO法人芦安ファンクラブによると、1960年代後半~70年代に登山者や販売業者による盗掘が目立った。しかし、県が制定した「県高山植物の保護に関する条例」(85年)、「県希少野生動植物種の保護に関する条例」(2007年改正)で罰則規定を盛り込み、高山植物の希少価値を周知したことなどで盗掘は次第に減少。一方で、群生地に踏み込んだ跡が次第に目立つようになった。

 被害が増える背景について、地元山岳関係者は「近年の登山ブームで北岳にも登山のベテランだけでなく初心者が増え、希少な高山植物を守る意識が一部で低くなっている」と指摘。「盗掘の場合、(高山植物の価値が下がる)踏み込むようなことはしない」ため、以前は踏み荒らすケースは現在ほど見られなかったという。山岳関係者は「呼び掛けても改善せず、今後も続くようであれば、ロープやネットの設置も検討していかなければならない」としている。

 県が制定した条例では、キタダケソウやタカネマンテマ、キバナノアツモリソウなど22種類を指定希少野生動植物種として定めていて、罰則規定は盗掘などの採取だけでなく、損傷行為も対象となる。しかし、県みどり自然課によると「踏み荒らしが損傷行為に当たる可能性もあるが、行為を発見し、処罰対象となる行為の立証は難しい」という。

 南アルプス市芦安山岳館の塩沢久仙館長は「民間と行政が協力し、高山植物保護につなげていきたい」と話している。

 【写真】高山植物の群生地に残っている踏み跡(円内や矢印)=南アルプス・北岳

 (2011年8月25日付 山梨日日新聞)

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