〈10〉ライチョウ 厳しい生育環境
「象徴」保護 地域の手で
南アルプスユネスコエコパークのロゴにシンボルとしてデザインされているライチョウ。「日本に生息する個体は人懐こい。山岳信仰で『神の鳥』とされてきた特別な存在なんですよ」。南アルプスなどで長年保護に取り組んできた、信州大の中村浩志名誉教授(77)が熱を込めて話す。
国の特別天然記念物で絶滅危惧種に指定されているライチョウは環境省などが保護事業を実施してきた。信越自然環境事務所(長野市)によると、国内では1980年代に約3千羽以上いたが、天敵のキツネの増加や温暖化による生息環境の変化などで減少。2000年代には約1700羽まで減った。特に南アルプス(北岳、間ノ岳、農鳥岳)は顕著で、1980年代に63カ所あった縄張りは2014年には8カ所に減った。
南アルプスでは15~19年、同省や中村さんらが保護事業を展開した。ひなと親鳥を同じケージに入れ、悪天候や天敵から守った。「効果はてきめん」(中村さん)で、15年に9カ所だった縄張りは4倍の35カ所にまで回復した。
16~18年には、南アルプス市などが登山者らに南アルプスのライチョウを守る活動を担ってもらう「ライチョウサポーター」制度を実施。県内外の954人が、ライチョウを発見した場所や日付などを静岡市を通じて同省に報告した。中村さんは「南アルプスは広域で、環境省職員や研究者だけで情報を得るのは難しい。協力があったからこそ的確なデータを収集できた」と話す。
一度絶滅した中央アルプスでは現在、環境省などが南アルプスで成果が出たケージでの保護などに取り組み、約120羽が生息している。南アルプスでは春と秋に個体数や生息地の調査、ひなの成長観察を実施。捕食者の増加や温暖化が進んだ影響で、縄張りは19年の半数近くまで減っている。
再び厳しい生息環境にさらされていることについて、中村さんは「国だけでは保護活動の継続は難しい。現状に目を向け、地元自治体が主体となって保護活動を実施するべきだ」と提言する。地域のシンボルを守るため、地域での新たなアクションが求められている。
(おわり)
【ライチョウ】 全長約40センチのキジ目の鳥で、本州中部の高山帯に生息。南アルプスは南限とされる。羽毛は夏は白や黒、茶色などのまだら模様、冬は全身白色に変化する。国の特別天然記念物に指定され、環境省のレッドリストで絶滅の恐れが2番目に高い「絶滅危惧1B類」に分類されている。
(山梨日日新聞 2024年9月7日掲載)