〈9〉早川・茂倉ウリ 栽培減少
地域固有の食材 継承へ
「昔はそこら中にあったんだよ」。25日、早川町新倉の茂倉集落で開かれた、伝統野菜「茂倉ウリ」の収穫や調理を体験するイベント。同所の倉本昇勇さん(83)が地区を歩きながら参加者に生育の様子などを紹介した。「今はもうあまり作れなくなってしまったけどね」
町中部の斜面に家々が寄り集まって形成された茂倉集落。昭和初期までは外部との交流が少なく、多くの住民が焼き畑農業や林業など自然と共生する暮らしを営んできた。
倉本さんらによると、茂倉ウリは昭和初期まで集落の約70世帯ほぼ全てが栽培していた。高度経済成長期を経て過疎化が進み、集落は現在10世帯10人に減少。茂倉ウリの栽培量も減り、「幻の野菜」と呼ばれるようになった。倉本さんは「栽培する住民がいなくなれば、いつか消えてしまうかもしれない」と語る。
町内では、伝統野菜として後世に残そうとする取り組みが進められている。町の集落支援員大木彩さん(33)は今年、倉本さんから畑を借り受け栽培を始めた。種をまく時期や与える水の量などを住民から聞き取るなどして研究し、7月に収穫にこぎ着けた。生育しづらいとされている他の場所での栽培も試しているほか、町民や観光客向けの販売会も実施。存続に向けてPRを図っている。
南アルプスユネスコエコパークは人と自然が密接に関わり、環境保全や資源の利活用に取り組むことを理念に掲げている。地域固有の食材として集落で受け継がれ、住民の食を支えてきた茂倉ウリ。「伝統野菜を守ることは、その地域の暮らしを後世に伝えることにもつながる」(大木さん)。食文化をつなげていく試みは始まったばかりだ。
【茂倉ウリ】 早川町新倉の茂倉集落に伝わる在来種のキュウリ。ずんぐりとした形で長さは15~20センチほど。水分が多く、滑らかな舌触りが特徴で、郷土料理「冷や汁」などに使用される。他の場所での栽培は難しいとされ、近年は住民の減少やサルなどの食害によって生産量が減っている。
(山梨日日新聞 2024年8月31日掲載)