2009.6.19 News / 自然文化 / 地名 /

連載・消えゆく櫛形山のアヤメ [下] ネットワーク発足 保全の在り方探り連携

 南アルプス市にある森林科学館の一室。5月11日夜、研究員や自然解説員、登山愛好家、教師ら、櫛形山で活動する面々が顔をそろえた。
 「櫛形山はアヤメの山。成長を阻害する植物は取り除けばいい」「ほかの動植物との関係を踏まえ、まず山全体の在り方を探るべきだ」。アヤメ保全をめぐり交わされた意見は、置かれた立場や考え方の違いを鮮明にした。

割れる意見

 「何とかアヤメを守れないものか」。山の変容を肌で感じてきた、登山愛好家でつくる「櫛形山を愛する会」の長沢武士さんは日々こんな思いを強めるばかり。南アルプス自然クラブ代表で教師の時田恵さんも「山で避暑し、秋に下りて卵を産むアキアカネ(トンボ)にとってもお花畑は必要」と、山で共存する動植物の観点から群生を守る意義を熱っぽく説く。

 危機感が強いあまり、いち早く行動する団体があった。昨年6月の裸山。巨摩高自然科学部OB会の有志が、アヤメの成長を阻害するとされるススキやヨモギの根を取り除いた。

 「取り返しが付かなくなる前に」との一心だったというが、「人が自然に手を入れて良いのか」と賛同しないOBも多かった。市みどり自然課は「データの裏付けがない行動が生態系に影響を与えかねない」と、活動を認めていない。

 「自然の摂理」か「人為的な保全」か-。森林科学館の石原誠さん(環境カウンセラー)は、今後の在り方を議論する上で「群生ができた経緯を知ることが鍵」とみている。「自生したなら人が手を入れられないが、人が植えていたなら今度も人工的に増やしていいはずだ」。

 ただ、アヤメ群生の経過をひも解くための資料はほとんどない。巨摩高自然科学部の調査報告「櫛形山のアヤメ」は花粉分析を基に「8万年前から自生していた」と結論付けたが、この説の調査方法を疑問視する声もある。1948年の米軍航空写真は当時草原だったことを示すのみだ。

 「残る手がかりは当時を知る人の記憶」と言う石原さんは「昔、地域の人がアヤメの株を植えたとの話も聞くが記憶は都合良く思い出される。高齢者に話を聞き、真相を確かめるのには今しかない」と危機感を募らせている。

アプローチ

 「花は咲かなくなったが、今ならまだ芽は残っている」。アヤメ群生の復活を願って集った有志は、情報を共有する場として「櫛形山ネットワーク」を立ち上げた。多様な意見を調整しながら、地域住民を巻き込んで櫛形山のあるべき姿を探ろうとしている。

 櫛形山の自然をどう考えていくのか-。全国から訪れる登山者のあこがれ、地域のシンボルであるアヤメの危機が投げ掛ける問い。「櫛形山の保全の在り方について合意形成ができれば、アヤメにどうアプローチすれば良いか方向性が見えるはず」。ネットワークに参加する「櫛形山を愛する会」事務局の依田善清さんはこう信じている。

【写真】櫛形山で活動する面々が顔をそろえた会場で、活動内容や調査結果を聞くメンバー。情報を共有するために櫛形山ネットワークを立ち上げた=南アルプス・森林科学館

(2009年6月19日付 山梨日日新聞)

月別
年別