登山者の目で南アルプスの生態系把握 芦安山岳館、情報提供呼び掛けきめ細かなデータ 研究者らに提供へ
目撃情報で生態系把握-。南アルプスの自然環境保護につなげようと、南アルプス市芦安山岳館(塩沢久仙館長)は、登山者の協力を得て野生動物に関する目撃情報収集に乗り出した。南アルプスでは近年、シカやサルの生息域が拡大。高山植物への食害やライチョウの生息数の減少など生態系への影響が指摘されている。しかし、険しい山岳地帯の実態をつかむのは難しく、正確なデータは少ないという。そこで、目を付けたのが年間を通じて南アルプスを訪れる多くの登山者。同山岳館は「登山者からきめ細かい情報を集め、研究者らに提供したい」と話している。
同山岳館が募っているのは、目撃した野生動物の種類や場所、日時など。ほかに動物がとった行動など、細かな情報も求めている。登山者に自然環境や生態系への関心を高めてもらうのも狙いの1つだという。
10日に北岳山荘に宿泊した甲府市の会社員(50)は同日午後六時前、山荘西側の3000メートル付近で、尾根のすぐ下を移動するニホンザルの群れを見かけ、山岳館に情報提供した。会社員は「景色を眺めていたら、わき出すようにサルの群れが駆け上がってきて北岳側に走り去っていった。70匹以上いた」と驚いた様子で話した。
南アルプスでは近年、3000メートル近くでもシカやサルの群れが目撃されるようになった。このほか、南アルプス登山の玄関口・広河原では、以前は少なかったクマの目撃情報が増えていて、イノシシも出没するようになっているという。
野生動物の生息域の変化は、ライチョウや希少な高山植物などの生息状況にも影響を与えているとみられている。特にシカやサルによる高山植物の食害は長野、静岡両県側では深刻な状況で、裸地化が進む「お花畑」も確認されている。
こうした実態を正確につかむには多くのデータが必要だが、南アルプスをフィールドにしている研究者にとっても高山域での情報収集は困難。研究者からは「現状把握のため、情報提供を要請する声が上がっている」(塩沢館長)ということで、山岳館は一定量の目撃情報が集まった段階で、研究者に提供する考え。
塩沢館長は18日、長野県大町市で開かれる第8回ライチョウ会議で、今回の取り組みを報告する予定。すでに登山者からサルやシカ、ライチョウなど約30件の目撃情報が寄せられている。
情報提供する際は、山岳館のホームページから用紙をダウンロードし、山岳館にファクスで送信する。山岳館は「夏山シーズンのピークを迎え、多くの登山者が入山している。たくさんの情報を寄せてほしい」と呼び掛けている。
同山岳館のホームページは、http://www.minamialps-net.jp/
【写真】北岳山荘西側で標高3000メートル付近の尾根の下を移動するニホンザル(10日)
(2007年8月18日付 山梨日日新聞)