2014.6.19 News / 芦安山岳館 /

【連載】エコパーク登録 南アルプス新時代 [4]

自然と共生広がる活動 未来の担い手育成に力

新緑がまぶしい韮崎・甘利山。麓にある甘利小の4年生84人が9班に分かれ、遊歩道を散策した。各班には、案内役として同市のNPO法人「甘利山倶楽部」のメンバーが1人ずつ同行。山野草の名前や、自然林と植林地帯の見分け方を教えると、子どもたちが熱心にメモを取った。

地元の小学生を案内し、景観の特徴を教える甘利山倶楽部の市川秀明さん=韮崎・甘利山

地元の小学生を案内し、景観の特徴を教える甘利山倶楽部の市川秀明さん=韮崎・甘利山

 南アルプスの国連教育科学文化機関(ユネスコ)生物圏保存地域(エコパーク)の登録決定が伝えられた12日のこと。案内役の1人、市川秀明さん(64)は「子どもたちに地元の山に興味を持ってもらえるのがうれしい」と笑顔を見せた。

甘利山の標高は1731メートル。山頂近くに駐車場があり、遊歩道の傾斜も緩やかで、幅広い年代に親しまれている。エコパークでは自然との共生を目指す「緩衝地域」に含まれ、適切な保護・管理の下、環境教育や研究活動、レジャーに利用できる。


児童ら校外学習

甘利山倶楽部は2001年に市内外の有志で発足し、会員は約50人。春と秋の草刈りや、群生するレンゲツツジの保護、動植物の観察会などを続けている。甘利小の児童の校外学習や、市内の高校生らの草取りボランティアを受け入れていて、次世代向けの保護啓発にも力を入れる。

同倶楽部理事長の清水一さん(68)は「個人では難しいが、何人も集まると強い力を発揮するのが良い点。継続しなければ、将来の保護につながらない」と、住民活動の大切さを語る。韮崎市商工観光課の大石智久課長は「行政だけではできない事業も多く、助けられている」と言う。

南アルプス市のNPO法人「芦安ファンクラブ」も、長年独自に南アルプスの保護やPR活動を続ける傍ら、行政と連携した取り組みを進めてきた。国土地理院に協力し北岳や間ノ岳の山頂付近の三角点を設置し直したほか、市の委託で南アルプス市芦安山岳館と三つの山小屋を管理するなど多岐にわたる。同クラブ事務局長の清水准一さん(64)は「行政と民間が助け合う関係を築ければ、活動が長続きしやすい」と語る。

行政は支援役で

4月には、県主体のプロジェクト内から「南アルプスガイドクラブ」が発足し、芦安ファンクラブの会員12人も登録した。8月のツアー開始に向けコースの選定などの準備を進める。清水さんはガイドクラブの会長も兼任する。「ガイドはただ案内するだけでなく、里山の文化や歴史、特産品も紹介し、幅広い楽しみ方を提供することが必要。人材育成を進め、より多くの人をもてなし、『この山を未来に残そう』という意識を広げたい」。自然の保全、活用の両立というエコパークの理念を踏まえ、目標を語る。

エコパークに登録されると、10年ごとにユネスコに動植物のリストを提出するほか、保護活動の経過などを報告する義務が生じる。対応には住民の協力が不可欠との声が上がる。南アルプス市ユネスコエコパーク推進室の担当者は「ここまで多くの市町村にまたがるエコパークは全国でもここだけ。住民の周知と参加を促し、柔軟な活動を展開したい」と話している。

南アルプスの自然などを研究している山梨学院短大の大久保栄治特任教授(72)は、南アルプスの麓の住民の活動は年々活発になっていると分析。「行政側はサポート役でいい。現在活動中の住民たちに協力してくれるような、新たな人材の確保を目指した事業を仕掛ければ、さらに行政と民間で活動しやすくなるはず」と提言している。

エコパーク登録による義務

登録後10年ごとに、文部科学省の日本ユネスコ国内委員会を通じ、動植物のデータや保護対策の実績と課題、住民活動の事例と成果などをユネスコに報告する。仮に怠っても登録が抹消(まっしょう)されるものではなく、他国では一度も報告していないケースも少なくない。

2014年6月19日付 山梨日日新聞掲載

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