更新日:2017年07月06日
作家・樋口明雄さん「K−9シリーズ」新著
北岳を舞台に救助隊が奮闘
年2回の登山で着想
 北杜市在住の作家・樋口明雄さんが、短編集「レスキュードッグ・ストーリーズ」(山と渓谷社)と長編小説「白い標的」(角川春樹事務所)を相次いで刊行した。南アルプスの北岳を舞台に山岳救助隊と救助犬が活躍する「南アルプス山岳救助隊K−9シリーズ」の5、6作目。フィクションながら実在する施設も登場。北岳に慣れ親しんだ愛犬家でもある作者が生み出す筆致は、雄大な自然の中で奮闘する隊員と疾走する犬たちの姿を鮮やかにイメージさせる。

 同シリーズは、南アルプス署所属の警察官でもある山岳救助隊員たちが、遭難者の救助や事件解決に挑む姿を描く。ボーダーコリーのハンドラー(指導手)である若き女性隊員を中心に、隊員たちが心に秘めた葛藤、成長もつづる。2012年の「天空の犬」を皮切りに長編や短編集を複数の出版社から発表している。

 「レスキュードッグ・ストーリーズ」には、隊員と高齢の救助犬との絆を描いた「相棒」、ライチョウの密猟を巡る物語「神の鳥」など12話を収載する。「白い標的」は厳冬の北岳が舞台。甲府市の宝石店に押し入った凶悪犯グループを、隊員が刑事たちとともに追うストーリーだ。

 樋口さんが初めて北岳に登ったのは02年。国内2位を誇る3193メートルの標高、さまざまな登山ルートや難所に「一目ぼれした。ここを舞台にした小説を書くことになると思った」と振り返る。

水中から出る感覚

 いまも毎年2回の登頂を欠かさない。「山小屋のスタッフに著書を配り、作品のネタを探す。ほかの登山者とは気にする場所が異なるため、目立っている」と笑うが、山に詳しいからこそ生まれる作品のリアリティーが、山に縁のない読者にも自然の雄大さや美しさ、厳しさを想像させる。

 山にのめり込むきっかけは1994年、漫画家・故永島慎二さんから登山に使う折り畳み式ナイフを贈られ、比較的難易度が低い高尾山に登ったことだった。その後は八ケ岳や北アルプスなど本格的な登山を繰り返した。「水中から出て一息つく感覚で、癒やされる」
 ナイフには「自分を縛る縄を切るために使ってほしい」とのメッセージが添えられていたという。「どこかへ飛び出してみないか、という意味だったのかもしれない。あのナイフがなかったら、今の自分はなかった」。99年に都内から登山がしやすい山梨へ移住。現在は県の自然監視員も務めている。

神の存在を感じる

 3匹の犬を飼っていて、愛犬とともに猿を追い払う「モンキードッグ」の養成訓練を受けたほどの愛犬家だ。「人とアイコンタクトができ、感情は共有する」という犬への深い理解が作品を支える。警察組織や装備品などの表現にもこだわっている。

 山岳小説、警察小説、動物小説とさまざまな側面を持つ同シリーズは、東日本大震災や原発事故、火山の噴火のほか、安全保障関連法、リニア中央新幹線のトンネル掘削工事など時勢に合った題材も扱う。「全体を通したテーマは、命の尊さや山で感じる神の存在『山の神性』だが、さまざまな題材が考えられる。書いていて飽きない」と語る。7作目にも意欲的に取り組んでいる。

 ひぐち・あきおさん 1960年山口県生まれ。雑誌記者やフリーライターを経て作家デビュー。「南アルプス山岳救助隊K−9シリーズ」には「天空の犬」(徳間書店)「ハルカの空」(徳間書店)「ブロッケンの悪魔」(角川春樹事務所)「火竜の山」(新潮社)がある。ほかに日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を受賞した「約束の地」など「環境省ワイルドライフ・パトロール(WLP)シリーズ」、「狼は瞑らない」「墓標の森」「武装酒場」など。

 (山梨日日新聞 2017年7月6日付)